2016年7月15日金曜日

ルクセンブルク


地湧社が創立以来出してきた月刊誌「湧」の1986年発行の第1号から、巻頭言を土日を除く毎日1編ずつ掲載していきます。

(月刊「湧」1993年9月号)

ルクセンブルク


 フランス、ドイツ、ベルギーの三国に囲まれたルクセンブルク大公国は広さ南北八十粁、東
西五十粁、人口三十九万人の小さな永世中立国である。かつての鉄鉱産業から変身して、今で
は首都ルクセンブルク市は金融会社が軒を連ねるヨーロッパ経済の中心となりつつある。国民
所得はEC諸国の中で最高水準にあり、周辺国からの信望も厚く、EC司法裁判所はこの国に
置かれている。
 最近私はこの国の一地方に十日間余り滞在する機会を得た。先ず私が関心をもったのは、周
辺の国からみれば辺境の片田舎でしかないこのちっぽけな国が、なぜ歴史あるヨーロッパの中
でリーダー的存在にまでなったのかということであった。
 ここの住民と親しく接するうちにこの謎は次第に解けてきた。住民の多くは現地語の他にド
イツ語、フランス語、そして英語を使いこなす。更に食生活も多様でヨーロッパ各国の食文化
を悉く集めている。その他生活文化全体について異質の文化の受け入れ上手である。そして生
活は質素素朴で自然環境を極めて大切にする。第二のスイスといわれるほど深い谷や丘が美し
く、森林が多く保存されている。
 この国は隣国との国力の落差があまりにも大きいので軍隊を用いたことがない。外国の侵入
を受けてもそのままそれを受け入れざるを得なかった。従ってさして深い傷も負わず、相手国
民に怨恨を残すことも少なかったようだ。つまりナショナリズムや国のエゴイズムを感じさせ
ない。ついに最後まで、この国の人々のアイデンティティーは? などというケチな質問は出
せなかった。今までの大国主義とは対照的な国の運営に明日の希望を見たような気がする。(MM)
                         1993年9月10日発行

(次世代のつぶやき)
ルクセンブルグは不思議な国ですね。世界唯一の大公国、立憲君主国です。ちゃんとした国ですが、お城が中心にあってファンタジックな感じがします。散々あっちこっちに占領されながらも生き残ったのは、政治というより宗教によるもののような気がします。滞在しましたが、とても明るかった印象があります。(2016年7月8日 増田圭一郎 記)