2016年7月14日木曜日

信号音と雑音


地湧社が創立以来出してきた月刊誌「湧」の1986年発行の第1号から、巻頭言を土日を除く毎日1編ずつ掲載していきます。

(月刊「湧」1993年7・8月号)

信号音と雑音


 人里離れた山中に住む知人に「ここでは地震の時に地鳴りが聞こえますか」と尋ねた。「小さ
な地震でもしっかり地鳴りが押し寄せてきますよ。十年前にここにくるまでは地鳴りなんて体
験したことはなかったんです」と言う。私は東京下町の家屋密集地帯に住んでいた小さい頃、
地震は地鳴りと共にやってくると思っていた。遠くからゴーッという音が近づいてきて、グラ
グラと揺れ、次にガタガタと家具が鳴り出す。ところがよく考えてみると、四十年くらい前か
ら、地震があっても地鳴りを聞かなくなった。これは自動車の普及と関係があると思っている。
 S-N比という概念がある。もともと電気通信工学で使われた言葉であるが、Sは信号、Nは
雑音で、音響装置はSN比が大きい方が高性能とされる。音声を増幅するときに雑音が小さ
く、信号が大きければ明瞭な良い音質が得られる。ここでは地鳴りが自動車の雑音に消された
というわけである。窓ガラスが汚れれば小雨に気づかなくなる。濃い味付けにすると素材の味
が消える。都会のあかりが夜をなくす。医学の進歩が自然治癒力を阻害する。教育活動がさか
んになって人間の成長を見失う。金権がはびこり政治が理想から遠のく。
 前述の知人の家で瞑想中に珍しいサウンドテープを聴かせてもらった。宇宙船外に出したマ
イクで宇宙空間の音を収録したものである。超高速で気体の雲を突き抜けていくような波状と
連続をくり返す鋭い複合音である。感動的なのに意味を感じない音なのだ。不思議なことにこ
のテープは何回ダビングをしても音質が低下しないそうだ。全部が雑音だからなのか、全部が
信号音なのか、その物指しがない。(MM)
                         1993年7月10日発行

(次世代のつぶやき)
電磁波や電波にさらされていると疲れます。『体の中の原始信号』(間中喜雄著)という本がある、鍼や経絡に出会った間中先生が、体の中の微弱な電気信号を観察し、これをx-信号系と名付けます。音波もそうですが、強い波動にさらされていると微弱な波動が弱ってきます。
(2016年7月7日 増田圭一郎 記)