2016年3月15日火曜日

ネイティブ・ピープル


地湧社が創立以来出してきた月刊誌「湧」の1986年発行の第1号から、巻頭言を土日を除く毎日1編ずつ掲載していきます。

(月刊「湧」1989年1月号)

ネイティブ・ピープル


 アメリカのアリゾナ州には、古くからナバホやホピと呼ばれる部族が生活を営んでいる。近
ごろ心ある人は、このような部族の人々をネイティブ・ピープルと呼び、人類の未来にとって
大切な存在であるという認識を深くしている。
 私は、この部族の地の広い草原や砂漠の台地に立って、太陽の出入りと月の出入りが映しだ
す見事な風景を数日間にわたって飽かず眺め通し、夜毎に満天の星の中に身をさらした。そう
してこの地の歴史に思いを馳せた。
 スコット・オデールという人が史実をもとに書いた、『ナバホの歌』という物語がある。昔、
平和に暮らしていたナバホの少女が、ある日突然奴隷商人のスペイン人に捕らえられて遠隔地
に連れてゆかれる。その時に、少女は背中に北極星を感じながら南へ何日歩き、東に何日歩い
たということを覚えていて、砂漠の中を確信をもって逃げ帰る場面がある。私は、この話にわ
が意を得たりとほくそ笑んだものだ。私にはいつの頃からか見知らぬ遠い所に行くと、無意識
に北極星の位置を確かめる癖があるからだ。
 この物語は、一八六〇年頃の、白人社会とインディアンと呼ばれた人々との相克が、もっと
も激しかった時代が舞台となっており、大地に焦がれるネイティプ・ピープルの心が鮮明に描
かれている。それから百余年、歴史は流れたがこの物語は終わってはいない。
 ナバホの土地を案内してくれた青年は、自分をインディアンといわずにナバホと呼んでほし
いと、はっきりいった。そして「われわれナバホは日本人を海の向こうのナバホと呼んでいる」
という。なぜ彼らが日本人をそう呼ぶのか、私にとって年越しの公案となっている。 (MM)
                               1989年1月10日発行

(次世代のつぶやき)
『ナバホの歌』と同時期の実話をもとにした小説を、小社から2004年に出版しました。『輝く星 ホピ・インディアンの少年の物語』(ジョアン・プライス著 北山耕平訳)です。捕らえられ、奴隷として売られたホピの少年が、買った白人と過ごすうちにメディスンマンと出会い成長していく物語です。この時代の背景がわかるとともに、ホピを知るのにもうってつけの本です。
(2016年3月14日 増田圭一郎 記)