2016年2月3日水曜日

観光地


地湧社が創立以来出してきた月刊誌「湧」の1986年発行の第1号から、巻頭言を土日を除く毎日1編ずつ掲載していきます。

(月刊「湧」1988年1月号)

観光地


 大分県の山中にある由布院温泉は天然自然と人の心に恵まれた超一級の観光地である。この
地を訪れる人は火山性の山々の精気に包まれて、居ながらにしていのちの蘇生力を感ぜずには
いられない。それに加えて茅葺や瓦屋根の木造の建物がゆったりと配置温存されている静かな
町のたたずまい、自然味を活かした心のこもった料理の数々など、何度訪れても心安らぐよい
地である。
 この町の古い旅館である亀の井別荘の主人中谷健太郎さんは三代目である。中谷さんのおじ
いさんが七十年前、辺境であったこの地に別荘を造り、人を招いて語り合ったのがこの宿のは
じまりであった。訪れる客には精一杯のもてなしをし、その客から諸々のものを学ぶという姿
勢は地域の人々にも受け継がれ、今日の魅力的な環境づくりに活かされている。
 先日、中谷さんは、食養研究家の東城百合子さんと百姓医者の竹熊宜孝さんを招いて講演会
を開いた。ここの町づくりの歴史がそうであったように、人間と自然が響き合ったとき、その
町の魅力が創り出されていく。それを「土」の次元からつなぎたいというのである。この会に
は農家や町中のさまざまな人が集まり、その関心の高さがうかがわれた。
 講師の両先生は技術的方法論よりもむしろその元になる心の問題について多く語られた。こ
の町に心を感じたからであろう。
 「訪れる人、招く人が互いにその人の光を観じあう、その場を観光地と呼んだらいいのでは
ないか」というのが中谷さんの持論である。 (MM)
                               1988年1月10日発行

(次世代のつぶやき)
「訪れる人、招く人が互いにその人の光を観じあう」いい言葉ですね。人は人の光を観じ、それで生きているのだと思います。地湧社が30年も前に出した『この子らは光栄を異にす』(山浦俊治著)という本があります。小羊学園という重度の障がい児施設の創設者の本ですが、このなかで著者の山浦さんは、みんな違っているのだけれど、みんな光を持っているんだよ、ということを言っています。小羊学園は今年5月で50周年。『この子らは光栄を異にす』を復刊します。
(2016年2月3日 増田圭一郎 記)