2016年2月16日火曜日

後始末


地湧社が創立以来出してきた月刊誌「湧」の1986年発行の第1号から、巻頭言を土日を除く毎日1編ずつ掲載していきます。

(月刊「湧」1988年9月号)

後始末


 この夏は全国的に大雨の涼しい日が続いたが、アメリカでは逆に猛暑の干ばつで農作物がと
れなくなっており、今年は地球規模の異常気象だという。北半球の気圧配置をみると、ちょう
ど北極を挟んでシーソーがアンバランスになっているような状態にある。しかし自然のバラン
ス作用は人間の思惑を越えて、一時的には禍いに見えても、長い歴史の流れからみれば次の世
代の恵みになってきた。流し、壊し、埋め尽くし、腐敗させ、風化する、という死への誘いも、
次の生への準備となる。人間が気付こうが気付くまいが大自然は後片付けをし、準備をしてく
れてきた。
 以前、私は親元を離れひとりで暮らすようになったとき、夜帰宅すると片付いていない部屋
を見てがく然とした。斜めに置いた座布団は斜めのまま、座布団が自分で歩いて部屋の隅に片
付くことは決してない。こうしていままでは家族の誰かが始末してくれていたことに気付いた
ものだ。人類はとうに自然という親元を離れ独り暮らしを始め、誰も片付けてくれるひとがい
ないのに、あいも変わらず散らかし放題をしている。今や壊れたり腐敗することのない廃棄物、
回収不可能な大量の炭酸ガス、生命を保護している上空のオゾン層を破壊するフロンガス、そ
して核汚染物質など自然の力では手に負えないものが溢れている。このまま進めば人間は環境
保全のために大きな負担を背負い、病と重税に苦しみながら日々重労働に明け暮れするように
なることは明らかだ。しかし大自然の力は計り知れない。思いもかけない解決能力を人間にセ
ットしているかもしれない。 (MM)
                               1988年9月10日発行

(次世代のつぶやき)
後始末は、タイミングを逃すととてもやりにくくなります。一番いいのは、すぐその場でやること。そうすれば、事が片付くだけでなく、心から気になることをひとつ消せます。
もうひとつ大切なのは、後始末を「きちん」とすること。並べ方、揃え方、結び方をきっちりとすることは、心を整えることになります。
でも、心が雑然としているとなかなかできないですね。
先日亡くなった森のイスキアの佐藤初女さんは、この丁寧に生きることを全身で示してくださっていました。 (2016年2月16日 増田圭一郎 記)