2016年1月3日日曜日

見えない横縞の世界


地湧社は、創立以来月刊誌「湧」を発行してきました。
「湧」は、単行本をはじめとする出版活動の宣伝をするとともに、地湧社の設立理念を明確にしていく広報的役割を果たしてきました。
30年目の今年、改めて原点を振り返り新しい一歩を踏み出すために、第1号からの巻頭言を1日1編ずつ掲載していきます。

(月刊「湧」1986年3月号)

見えない横縞の世界


 ある女性の学者がこんな実験をした。部屋の壁や調度品一切を縦縞に塗り、その中で生まれ
てまもない子猫を育てる。猫が大きくなったとき、今度は、部屋の中を一切横縞に塗り替えて
しまう。するとどうなるかこの猫は、部屋の壁や調度品があたかも存在していないかのよ
うに振舞い、歩くたびに激突してしまって全く生活不能となる、ということである。事物と認
識との関係を考えるのに格好の話である。
 食生活の荒廃が叫ばれて久しい。荒廃という横縞の壁が見えなければ何度でも衝突して心身
の健康は損なわれていく。本号に登場されている丸山博氏や馬淵通夫氏は、食と健康について
その問題のありかを長年指摘し続けてこられたが、気付く人が少ないらしい。さぞ歯がゆいこ
とであろう。
 有害な食品添加物、過剰な農薬使用、合成洗剤や核物質に至るまで、生命にとって危険かつ
重大な問題は、みな、見えない横縞模様で描かれているのだろうか。
 熊本県の養生先生、竹熊宜孝氏は、いまの学校教育では生命に関する基本的な教育がほとん
ど行われていない、と指摘しておられる。先の子猫の育て方の話に当てはめれば、現代は、縦
縞一点張りの偏った情報によって真実を見る目をくらませる生命軽視の社会といえまいか。
 このようなことをいうと、よこしまな考えだ、といわれる世の中になってしまったのかもし
れない。               (MM)


(次世代のつぶやき)
この子猫の実験は、1981年にノーベル生理学賞をとったデイヴィッド・ハンター・ヒューベルとトルステン・ニルズ・ウィーセルによる研究のことだと思われます。
それはさておき、刷り込みによる思いこませは情報化社会ほど深刻です。うそも百遍言えば本当になる、というひどい言い方もありますが、巧妙に錯覚させる情報がたくさんあるのもたしかです。
こういう世の中では、自分の感性が大切と言われてきた私には、衝撃的な体験があります。アメリカで単発飛行機のライセンスを取るために訓練していたときのこと。飛行中に上昇下降や水平が分からなくなったときは、自分の感覚でなく、計器の方を信じろと教官に言われました。えっ、機械だって壊れるでしょ、自分の命を機械に預けるの? 
しかし、飛行機の訓練は、基本的に機体の操縦より、心の操縦、つまりパニックにならないことと気づいてきたとき、だんだん腑に落ちてきました。
人間は不安になったとき、錯覚しやすいのです。
まわりが不安定になり、不安に落ちそうなこの時代、錯覚や刷り込みに注意しましょうね。
(2016年1月3日 増田圭一郎 記)