2016年1月14日木曜日

イマジネーション


地湧社が創立以来出してきた月刊誌「湧」の1986年発行の第1号から、巻頭言を土日を除く毎日1編ずつ掲載していきます。

(月刊「湧」1986年11月号)

イマジネーション


 先日、東京の青山にある風変わりな店を二軒訪ねた。
 一つは「シンク・ビック」という店で、店内には人間の身長ほどもあるエンピツや三人が楽
に座れる野球のグローブ、腹に巻いても余る大腕時計などが展示されている。
 もう一つは、この店の近くにある「グルベア」というミニチュアを売る店で、ここには間口
五十センチの豪邸と、その中に入る人形や、家具から食料品にいたるまでのあらゆる生活用品
のミニチュアが揃えてある。
 この日は午後から二時間ほど、心理学者の関計夫氏から知覚研究の権威でゲシュタルト心理
学の第一人者であるアルンハイムついて、その人と仕事の話を伺っていた。この話が発展し
てイマジネーションと芸術、あるいは宗教との関係に及び、その延長線上で関氏をご案内して
前述の店を見ようということになったのである。
 私は以前に一度この店を見ていたがその時は、これらの商品の意味がつかめなかった。しか
し今回、関氏のお話を聞いた新しい目で、大型トランプカードやミニチュアのリビングルーム
と静かに対面してみると、日常性の中に埋没して、実物ではかえってつかみにくくなっていた
そのものの本質を、むしろこの模造品がよりリアリティーをもって訴えかけているように感じ
られ、これらの商品の存在理由がうなずけてきた。
 情報媒体のビジュアル化、具象化がすすんでますますイマジネーションを許さない情報氾濫
の昨今、日常性をちょっと外してこんな店を訪ねるのも一興かと思う。  (MM)
                               1986年11月10日発行

(次世代のつぶやき)
ゲシュタルト心理学の話しが出てきますが、人間は知覚から認識までの間にかなりイマジネーションを必要としているそうです。あいまいさを上手に判断して受容する能力が大切です。
話しは飛ぶようですが、スマホはイマジネーションの力を鈍化させるような気がします。イマジネーション力がないと受容性も弱まります。逆に絵画にしろ音楽にしろ優れた芸術はイマジネーションをかき立て、育ててくれるのではないでしょうか。
(2016年1月14日 増田圭一郎 記)